【この記事でわかること】
グローバルおよび日本国内の飲料市場の現在地と今後の予測、巨大企業と新興ブランドの攻防、そして利益を圧迫する「多品種化(SKUの増殖)」の問題について解説します。また、肥満治療薬(GLP-1)の普及や物流問題といった、業界を揺るがす最新トレンドも押さえています。
今の飲料業界は、インフレに乗じた「値上げによる売上増」のフェーズを終え、健康志向や付加価値の高さを武器にした「質と量の成長」へと戦略の舵を大きく切っています。世界市場は2031年に向けて順調に拡大する見通しであり、成熟しきったと言われる日本市場においても、2024年の販売金額は過去最高を記録するなど、確かな底力を見せています。
本記事では、信頼できるデータに基づき、飲料市場のリアルな動向と利益を生むポイントの変化、そして企業がこれから直面する本質的な課題と次なる打ち手について、専門家の視点から解説します。
飲料業界の市場規模と成長予測
グローバル市場の全体規模と将来予測
世界の飲料市場は、2025年時点の推計で約1兆9,200億米ドル規模に達しており、2031年には2兆6,700億米ドルへと、年率5%台半ばの堅調なペースで拡大していくと見込まれています。
この成長を引っ張っているのは、消費者のこだわりに寄り添う「プレミアム志向」と、健康意識の高まりを受けた「機能性飲料」へのシフトです。2025年時点ではアルコール飲料が市場の過半数(約63.8%)を占めていますが、これからの伸び率で見れば、ノンアルコール部門がアルコール部門を逆転する勢いを持っています。
| グローバル市場の主要指標 | 金額・成長率 | 備考・市場を動かす要因 |
|---|---|---|
| 2025年 推計市場規模 | 1兆9,200億米ドル | インフレの落ち着きと、プレミアム商品の定着 |
| 2026年 予測市場規模 | 2兆300億米ドル | 健康志向を背景とした機能性飲料のニーズ拡大 |
| 2031年 予測市場規模 | 2兆6,700億米ドル | アジア太平洋(APAC)地域が世界的な需要を牽引 |
| 予測年平均成長率 (2026-2031) | 5.65% | 特にノンアルコール領域(6.05%)の伸びが顕著 |
| 機能性飲料の成長率予測 | 7.93% | 2031年には約2,400億米ドル市場へ到達する見込み |
出典:Mordor Intelligence『Beverage Market Size, Share Analysis & Industry Report, 2031』 出典:Mordor Intelligence『Functional Beverages Market Size, Share & Industry Report, 2031』
日本国内の市場規模とカテゴリ別トレンド
「これ以上伸びない成熟市場」と見なされがちな日本市場ですが、数字は全く異なる現実を示しています。2024年の清涼飲料水の生産量は前年比1.6%増、販売金額に至っては前年比6.4%増の4兆7,313億円に達し、揃って過去最高を更新しました。
背景にあるのは、高付加価値商品へのシフトと、消費者に受け入れられた適切な価格改定です。カテゴリ別に見ると、「茶系飲料」が生産量トップを走る一方で、「ミネラルウォーター類」が著しい伸びを見せており、無糖・健康志向が深く定着していることがわかります。 また、開発に時間とコストがかかる「特定保健用食品(トクホ)」が縮小する一方で、スピーディーに市場投入できる「機能性表示食品」の生産量が前年比で約1.3倍に急拡大しており、メーカー側の投資の軸足がどこに移っているかが如実に表れています。
出典:全国清涼飲料連合会 (JSDA)『統計・データ (2024年/2025年版)』 出典:全国清涼飲料連合会 (JSDA)『清涼飲料水統計2024 (2023年実績詳細データブック)』
主要プレイヤーと市場シェア・競争環境
グローバル企業のM&A戦略と新興ブランドの躍進
グローバル市場は巨大企業による寡占状態に近いものの、消費者の細かな欲求をすくい上げる新興ブランドが、業界全体の成長分の約4割を奪い取るというダイナミックな下克上が起きています。トップ企業はこうした新興勢力に対抗、あるいは取り込むために、積極的なM&Aで自社のラインナップを再構築しています。
- PepsiCo(ペプシコ): 腸内環境を整えるソーダで話題の新興ブランド「poppi」を約16億5,000万米ドルで買収。さらに主力製品でも大幅に砂糖を減らした機能性コーラを投入しています。
- The Coca-Cola Company(コカ・コーラ): 環境配慮型パッケージへの移行を進めつつ、ペプシコに対抗する機能性ソーダ「Simply Pop」を投入し、健康領域での防衛線を張っています。
- Keurig Dr Pepper: 急成長するエナジードリンクブランド「Ghost Beverages」の株式60%を約9億9,000万米ドルで取得し、収益性の高いカテゴリへ資金を集中させています。
出典:Bain & Company『Consumer Products Report 2025: Reclaiming Relevance in the Gen AI Era』
日本国内の主要5社が挑む「非競争領域でのタッグ」
日本国内では、アサヒ飲料、伊藤園、キリンビバレッジ、コカ・コーラボトラーズジャパン(CCBJI)、サントリー食品インターナショナルの大手5社による激しいシェア争いが日常風景となっています。
しかし、今の業界で最も注目すべきは、この5社が物流や環境対応といった「競争しない領域」において合同研究会を立ち上げ、完全に協調路線へと踏み出した点です。商習慣の見直しや共同配送のルール作りなど、1社では到底解決できない巨大な社会課題に対し、業界横断でリソースを持ち寄るという極めて現実的なアプローチをとっています。
出典:物流業界入門『【業界横断の物流改革】清涼飲料大手5社、「賞味期限逆転ルール緩和」と「共同配送の再設計」で、2024年問題の先へ』
バリューチェーンの構造と利益源泉のシフト
飲料業界で利益を生むポイントは、両極端に分かれつつあります。川上にあたる「レシピの開発や健康効果の証明(R&D)」と、川下にあたる「直販チャネルやデータ活用マーケティング」に高い利益が集中する一方で、真ん中にある「生産やボトリング」の工程は、コスト上昇によって構造的に利益が出にくくなっています。
ここで業界全体を悩ませている最大の病巣が、「商品ラインナップ(SKU)の無秩序な増殖」です。日用消費財の業界全体で見ると、不必要な多品種化によって最大280億米ドルもの利益が浪費されているという指摘もあります。売れない商品のために工場の生産ラインを細かく止めたり、余剰在庫の保管コストが膨らんだりするのを防ぐため、AIを駆使して「本当に残すべき商品はどれか」をデータで選別する仕組みづくりが急務となっています。
出典:Tellius『SKU Rationalization in CPG: Why the Spreadsheet Isn't Enough Anymore』
業界の最新トレンド・外部環境
GLP-1の普及と「物流2024年問題」の突破口
消費者のライフスタイルに不可逆的な影響を与えているのが、肥満治療薬(GLP-1)の急速な広がりです。これによって人々のカロリー摂取量が構造的に下がり、「たくさん飲む」ことから「少しの量で高い効果(機能)を得る」ことへと、求める価値が明確にシフトしています。
また日本の「物流2024年問題」に対しては、飲料業界の商習慣改革が大きなブレイクスルーを生みました。大手5社は「消費者の9割は、賞味期限の逆転(古い日付のものが後から店頭に並ぶこと)を気にしない」という客観的なデータを武器に、小売側の厳格な納品ルールを緩和させることに成功しました。これにより、無駄な輸送トラックや食品の廃棄ロスが劇的に削減されています。
環境対応の必須化と、インフレ後のリアル
サステナビリティ対応は、もはやPRではなく事業継続の必須条件です。日本でも2030年までに「使用済みペットボトルを再びペットボトルに戻す(水平リサイクル)」比率を50%以上にする目標が動いています。大手各社が導入した「短いボトルキャップ」も、プラスチック削減と輸送トラックの軽量化を同時に叶える優れた一手です。
経済面に目を向けると、世界的なインフレの波が落ち着きを見せ始め、「値上げによる売上増」のフェーズは終わりを迎えました。これからの市場では、実際の販売数量をどう伸ばし、いかに生産性を高めるかという、本来の地力が問われることになります。
出典:PETボトルリサイクル推進協議会『年次報告書 2024』 出典:農林水産省『プラスチック資源循環への対応に係る飲料業界の取組』
新規事業開発・経営企画に向けた戦略的示唆
これからの飲料業界において、企業が成長を確保するための戦略的な方向性を2つにまとめました。
1. AIを用いた「商品ラインナップの絞り込み」
新商品を次々と投入して売上規模だけを追う戦略は、すでに限界を迎えています。単に売上の低い商品を切るのではなく、AIを活用して消費者の動向を分析し、「どの商品をテコ入れし、どの商品を完全に終売させるか」を冷徹に判断する仕組みが必要です。 現状、飲料を含む消費財メーカーは他業界に比べて生成AIの導入が遅れていると言われています。一部の部署でのテスト導入を抜け出し、需要予測や顧客ごとに最適化したマーケティングなど、会社の心臓部にAIを組み込む決断が求められます。
2. スピードを買うM&Aと、インフラの共同利用
目まぐるしく変わる健康志向や新トレンドに対し、自社の研究開発だけで全て追いつこうとするのは非現実的です。すでに市場で熱狂的なファンを獲得している新興ブランドを買収し、自社の強固な流通網に乗せて一気に拡大させる手法が、最も手堅い成長戦略となります。 同時に、環境対応やドライバー不足といった「1社では解決できない巨大な壁」に対しては、早い段階からライバル企業と手を組み、共同配送やボトルの規格統一を進める「競争と協調の使い分け」が経営の必須スキルとなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 今後の飲料業界で、最も伸びるカテゴリは何ですか?
A. 「機能性飲料」と「ノンアルコール飲料」です。健康意識の高まりに加え、肥満治療薬の普及などにより消費者のライフスタイルが変化したことで、エナジー補給や腸内環境の改善といった明確な目的を持つ飲料が急成長しています。
Q. なぜ商品数(SKU)を減らす必要があるのですか?
A. 商品の種類が無秩序に増えすぎると、工場の生産ラインを切り替える手間が増えたり、売れない商品の在庫管理コストが膨らんだりして、企業の利益を大きく削り取ってしまうからです。データに基づいて「本当に売るべき商品」を絞り込むことが、利益率改善の鍵になっています。
Q. 物流問題に対して、日本ではどんな対策が取られていますか?
A. 大手メーカー同士がライバルの垣根を越えて「共同配送」を進めているほか、小売業界に協力を仰ぎ、これまでは厳格だった「賞味期限の順番通りの納品ルール」を緩和させました。これにより、トラックの無駄走りや食品ロスを大幅に減らす取り組みが進んでいます。
まとめ
飲料業界は今、大量に作って大々的に宣伝すれば売れるという過去の成功モデルが機能しなくなり、消費者の細かなニーズを捉えた新興ブランドが台頭する、価値観の転換期にあります。
経営の舵取りにおいて重要なのは、闇雲な新商品投入による利益の垂れ流しを防ぐ「データに基づく商品の絞り込み」と、すべてを自社で抱え込もうとしない「戦略的なM&Aと業界内での協調」です。本記事のインサイトが、今後の事業計画やポートフォリオを見直す際のヒントとなれば幸いです。
※ 本記事は公的機関等のデータに基づく業界概論を解説したものですが、常に変化する市場動向における情報の正確性を保証するものではありません。最終的な事業判断につきましては、情報の利用による損害等を含め、当社は責任を負いかねますのでご自身の責任にてお願いいたします。
